独立行政法人労働者健康安全機構
東北労災病院
看護副部長 千葉洋美
時代の潮流とともに多様化する看護師の役割と働き方を実感
― 早速ですが、千葉さんは長年看護の現場にいらっしゃるとのことですが、看護師の仕事や働き方は、これまでどのように変化してきたとお感じになりますか?
千葉さん: そうですね。私が看護師になったのは33年前ですが、当初は助産師として働いていました。 しかし、お産も少なくなってきたため、当院も産科がなくなり、今は看護管理者として働いています。看護師の仕事というのは、日本の人口動態の変化と共に大きく変わってきたと感じています。
― と言いますと、具体的にはどのような変化でしょうか?
千葉さん: 私が就職した頃は、病院に就職して看護師として一人前になる、というのが一般的なコースだったように思います。しかし、今は、本当に色々な場所で看護師が必要とされています。病院の中はもちろんですが、その他にも、地域の介護施設や訪問看護ステーションなどフィールドが広がり、2040年に向けてますます重要になってきていると感じますね。
― 確かに、高齢化が進む中で、看護師の活躍の場は病院内にとどまらなくなっていますね。実習のあり方にも変化はありましたか?
千葉さん: はい。カリキュラムの改正もあり実習時間が短縮され、当院で実習を受け入れている学校では、昨年より領域別実習が3週間から2週間になりました。その中で看護過程を展開し患者さんへ必要なケアを提供していくので、本当に目まぐるしいです。受け持ちが高齢の患者さんの場合は、複数の疾患を抱えていることが多く、症状も非典型的で複雑なためアセスメントや個別性のある計画立案に時間を要します。
― 実習生も大変ですね。
千葉さん: ええ。ですから、私たちも情報収集の仕方を工夫してアドバイスをするなど、学生と実習指導者とのやり取りも、より具体的な内容になってきていると感じます。
― 指導する側も、よりきめ細やかな対応が求められているのですね。
千葉さん: そうですね。実習指導者も大変ですが、将来看護界を支えていく後輩を育成するという使命感を持って関わっています。実習を受け入れる側も時代に合わせて変わっていかなければならないので、看護師長補佐が中心となり、若者世代の特徴や関わり方などについて研修会を開催しました。先輩たちの知識をアップデートし統一した指導ができるように工夫しています。日々の関わりではフィードバックや振り返りを大切にしています。 学生は実習を通して病棟の時間の流れや雰囲気を感じ取り、自身の興味や適性と照らし合わせて、自分は慢性期の方が向いているとか急性期がいいなど、そういったところも加味して、就職場所を選び始めていると感じます。看護師になる方の考えも多様化してきています。
― なるほど。学生さん自身が、自分の適性を見極めてキャリアを選択する時代になってきているのですね。
千葉さん: 看護師の活躍の場が広がっていることから、看護学生の就職の選択肢も広がっていると感じます。これからますます生産年齢人口が減少していく中で、看護師確保は喫緊の課題となっています。看護師を目指して頑張っている学生が、心に残る実習を経験できるように支援し応援していきたいと考えています。
個々の輝きを支える、しなやかな組織づくりと温かなまなざしを大切にしていきたい
― 看護師の働き方が多様化し、学生さん自身もキャリアを主体的に選択するようになっている中で、病院としては、看護師の方々が継続的に、そして意欲的に働けるように、どのような取り組みをされているのでしょうか?
千葉さん: 新人看護師は学生時代にコロナ禍を経験しており、実習状況も学校により異なるため個々の進捗に合わせて夜勤に入るタイミングなどを相談して決めていきます。全員が同じように進むことが難しい場合もでてきています。
― 新人教育に、より一層力が必要になっているのですね。
千葉さん: そうですね。毎月新人サポートカンファレンスで新人看護師一人ひとりの進捗を確認し、翌月の計画を修正し実地指導者、教育担当者と一緒に目標達成に向けてチャレンジしていきます。個々の意識や考え方にはばらつきがあり、その幅が広くなってきていると感じます。
― 個々の意識やレベルに合わせた教育というのは、非常に難しい課題ですね。
千葉さん: ええ。だからこそ、集合研修とOJT(オンザジョブトレーニング)の連動が重要になってきます。今はeラーニングなどの教材が充実しているため、動画を見てイメージトレーニングをして集合研修に臨み、その後OJTで指導内容を統一します。A先輩とB先輩の言うことが違って新人が混乱するということがないように気を付けています。そして他の人と比べず、その人に合わせた教育が必要な時代だと感じます。
― 一人ひとりに寄り添ったサポートが求められているのですね。具体的に、病院としてどのような取り組みをされているのですか?
千葉さん: 以前は、地域医療構想で病院の合築移転問題などもあり、良い看護師だなと思っていた人が辞めていったりして本当に悩んでいました。その中で、いきいきと働ける職場、看護師が定着する職場ってどうすればいいんだろうと思っていました。そこで、スタッフに「この病院で働いてよかったことは何か」をアンケートに取りました。その結果を看護師長や看護師長補佐と共有して、いきいきと働き続けられる職場をつくるためにどんな風に取り組んでいったらいいか、そのアンケートのデータを元に考えていました。これまでも部署異動の場合には、本人の希望を聞いていましたが希望が通らない場合もありました。しかし、現在は一人ひとりの考えや、どんな看護をしていきたいのか、どういうところで自分がキャリアアップしていきたいのか、十分に聞き取ることを大切にするようになりました。
― それは素晴らしいですね。
千葉さん: 看護管理者がそうしたことをとても大切にするようになってきたことで、異動をお願いする時には、自分自身のキャリアをどう考えているかをベースに納得が得られる異動や、復職を支援するようになってきました。妊娠、出産を経て育児をしながらずっと働き続けられるような職場を作っていきたいと思います。
― ライフステージに合わせた働き方を支援されているのですね。
千葉さん: はい。定年後再雇用の方も毎年増え、三交代してくださっている方もいらっしゃるので、体調を崩さずに健康で安全に働いてもらうための仕組みですとか。女性が多い職場ですので、女性のライフステージに合わせて、いきいきと働き続けるための体調管理ですとか、助産師としてそういうところにも今年は取り組んでいきたいと考えています。
患者さんのわからない不安に、一つひとつの看護を言葉で説明をしていくことで励ましたい
― 看護師の仕事が多様化し、個々のキャリア形成が重視される中で、「対話力」や「言語化力」の重要性がますます高まっているように感じます。千葉さんはこの点についてどのようにお考えでしょうか?
千葉さん: 私自身、看護をしていく上で大切にしてきたことの一つが、患者さんが今どういう状況なのか、言葉で伝えるということです。状況がわからないと不安になりますし、それが治療の妨げになることもあります。処置をしているのであれば、「今こういうことを、こういう風にしてやっていますよ」「ご協力いただいているので上手くいっていますよ」などと伝える。例えば、喀痰吸引をする場合、吸引の必要性を伝え、患者さんが動くと危険なので「吸引をするので動かないようにお願いします」と伝え、同意を得てから行う。そして、終わった時には「ご協力いただいたので上手く取れました。良かったですね。苦しくなくなりましたね。」というように、一つひとつの看護を言葉で説明していく。自分の考えたこと、実施していることを言葉にして患者さんに伝えて、一緒に頑張りましょうねと励まし反応を観ていく。これは非常に大切なことだと感じています。
― 患者さんとのコミュニケーションにおいて、言葉がいかに重要かということですね。
千葉さん: はい。そして、それはスタッフ間でも同じです。スタッフがどういう看護をしたいと考えているのか、あるいは上手くいった時どう思っているのか、失敗した時どう考えているのかなど病棟を担当していた時には、一人ひとりに聞くようにしていました。毎日一人1回は話すようにして、そうやって話してみないと、人の気持ちって分からないですからね。
― 相手の状況や気持ちを理解するために、まず対話が第一歩ということですね。
千葉さん: そうですね。自分がどうしたいのか、どう感じているのかを言葉にすることで、周りも理解しやすくなりますし、自分自身も考えが整理されます。育児中はどうしても子どの発熱などで急な休みが必要になる場合があります。それ以外のスタッフは「理由がないから休めない」と感じていました。しかし、これまで急な休みのカバーをして病棟の安全を守ってきたスタッフも、疲れきる前に「何にもなくたって休んでもいいのよ」と話したところ、休みを言い出せる雰囲気が出てきて休めるようになってきています。それは、思いを言葉にして伝え、それを受け止める環境があるからだと思います。
― 素晴らしい変化ですね。では最後に、これから看護師を目指す方々や、今まさに現場で奮闘されている看護師の方々へ、千葉さんからエールをお願いいたします。
千葉さん: 自分を大事にすることが、患者さんやまわりの人を大事にすることに繋がると思います。そして、自分の考えや気持ちを言葉にして伝えること、相手の話をしっかり聞くこと、この「対話」を大切にしてほしいです。看護の仕事は大変なことも多いですが、それ以上にやりがいのある素晴らしい仕事です。私自身は、一人ひとりが自分らしく輝けるように、そして、みんなで支え合える温かい職場を一緒に作っていきたいと思います。
― 千葉さん、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。
(インタビュー Tomopiia Nursing café 編集長 石田秀朗)