医療法人弘道会 すずかけグループ
すずかけヘルスケアホスピタル
看護部長 平野一美さん
時代とともに変わる看護の現場。見えてきた新たな課題とは?
― 本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まず、貴院における看護の現状についてお伺いしたいのですが、近年、看護の現場で何か変化を感じることはありますか?
平野さん:そうですね、まず感じるのは、患者さんの対応が難しくなっているということです。特に、コミュニケーションが困難な患者さんへの対応に苦慮するケースが増えているように感じます。
― それは、具体的にどのような状況なのでしょうか?
平野さん:背景には、患者さんの高齢化や認知症の増加があると思います。また、当院はリハビリテーション病院なので、高次脳機能障害をお持ちの方も多くいらっしゃいます。そのため、従来のコミュニケーション方法が通用しないケースが増えているのです。
― なるほど。そういった状況の中で、看護師の役割にも変化が生じているのでしょうか?
平野さん:はい。これまでは、決められた業務を勤務時間内にやらなくてはいけないという意識が強くありましたが、今後は、患者さんの状態を的確に把握し、それぞれに合わせたコミュニケーション方法を工夫していくことが求められるようになると思います。
― それは、まさに「寄り添う看護」の実践ですね。
平野さん:おっしゃる通りです。しかし、現実には、業務に追われ、患者さんとじっくり向き合う時間がないという課題もあります。
課題克服への二つのアプローチ、時間創出と教育体制の充実
― 時間がないという課題を克服するために、貴院ではどのような取り組みをされているのでしょうか?
平野さん:まず、業務効率化を進めています。業務を効率化することで、患者さんとコミュニケーションを取るための時間を捻出したいと考えています。
― 具体的にはどのような業務を効率化されているのでしょうか?
平野さん:看護提供体制の変更も行いました。当院の病室は十字架のような形になっているため、看護師が患者さんの状態を観察しにくいという問題がありました。これまでは、看護師がバラバラの部屋を担当していましたが、担当する範囲をラインで区切ることで、看護師が患者さんの状態をより把握しやすくなるようにしました。
― なるほど。業務効率化と並行して、看護師の教育体制も充実させているのでしょうか?
平野さん:はい。当院は既卒の看護師が多いので、経験者向けの支援体制を整えています。具体的には、定期的な面談を実施し、それぞれの看護師が抱える課題を把握するように努めています。
― 経験者向けの支援体制とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
平野さん:当院には、既卒看護師教育グループという看護師長と主任で結成するチームがあり、教育のプログラムを作成しています。1ヶ月は必須で、入職後の面談を設けております。その後も定期的に行い、面談の回数を増やしたり、他部署の主任さんが話を聞いたりするようにしています。技術支援はもちろんのこと、病院全体を知ってもらうため、他部署の体験を取り入れています。例えば、地域連携や外来、訪問看護などを体験する機会を設けています。
― 既卒の看護師が多いとのことですが、その点はどのようなメリットがあるのでしょうか?
平野さん:様々な経験を持った看護師が集まるため、お互いに学び合うことができるというメリットがあります。また、新卒の看護師に比べて、患者さんへの対応に慣れているという点も強みです。
― そのほかに、何か取り組んでいることはありますか。
平野さん:看護補助者の確保・定着という課題があるのですが、業務負担軽減と患者さんへのサービス向上を目指し、昨年末から取り組んでいることがあります。
― 具体的にはどんなことでしょう。
歯科衛生士の増員と365日口腔ケア提供体制の整備です。これまで歯科衛生士は2名でしたが、現在は6名になりました。病棟は3つありますが、部署を固定せずにローテーション形式で部署を担当しています。土・日・祝日にも歯科衛生士が勤務できるようにしました。そのうちの1名は訪問看護ステーションで、在宅で暮らす方のお口のケアや管理に携わり、看護のサポートもしてくれます。さらに1名増える予定です。
言語化・対話力向上を図り、看護の本質を追求するために必要なこと
― コミュニケーション能力を高めるために、貴院ではどのような考え方や方法を取り入れているのでしょうか?
平野さん:コミュニケーションスキルそのものを磨くことも大切ですが、その前提として、患者さんを理解しようとする姿勢が重要だと考えています。患者さんの言葉に耳を傾け、その背景にある感情やニーズを把握することが、より良いコミュニケーションにつながると思います。
― 患者さんを理解しようとする姿勢を養うために、何か具体的な取り組みはありますか?
平野さん:倫理的な課題について深く掘り下げたり、精神疾患について学んだりする機会を設けています。外部の専門家を招いて研修会を開催することもあります。
石田さん:専門家を招いて研修会を開催することは、どのような効果があるのでしょうか?
平野さん:患者さんへの理解を深めることができるだけでなく、看護師自身のメンタルヘルスにも良い影響があると思います。困難な状況に直面した際に、一人で抱え込まずに、専門家や同僚に相談できる環境を作ることも大切だと考えています。
― 最後に、これからの看護師に求められる資質についてお考えをお聞かせください。
平野さん:コミュニケーション能力を備えつつも、特に倫理観や共感力、そして、変化に対応できる柔軟性が必要だと思います。また、患者さんの尊厳を守り、その人らしさを尊重する気持ちを忘れないでほしいと思います。
― 本日は、大変貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
平野さん:こちらこそ、ありがとうございました。
(インタビュー Tomopiia Nursing café 編集長 石田秀朗)