看護の仕事は、患者さん安寧を支える素晴らしい仕事。
通じ合う関係、ケアしケアされる関係を大事にしてほしい

東京女子医科大学病院
看護部副部長 兼 看護職キャリア開発支援部門副部門長
精神看護専門看護師 
山内典子さん

時代とともに変わる看護のカタチ、それでも変わらない「患者を想う心」

― まずは、看護師として長年現場でご活躍されている山内さんから見て、この10年ほどで看護の現場はどのように変化してきたと感じますか?
山内さん:そうですね、看護の現場は大きく変化してきたと感じます。特に専門分化が進み、看護師の役割も細分化されてきました。特定行為看護師のような専門職も登場し、医師の業務の一部を担うことも増えてきましたね。
― 確かに、専門性は高まっていますよね。一方で、昔に比べて看護師の裁量権が狭まっているという声も聞きます。
山内さん:おっしゃる通り、以前は看護師の暗黙知としての判断が医師との間でも許容されていたために、患者さんの状態に合わせてケアを調整することも多かったのですが、最近はそれが形式化していることが必要になり、指示書を遵守して業務を行うことが多くなったような気がします。電子カルテの導入も影響しているかもしれません。
― なるほど。そうなると、看護師として「患者さんのために何ができるか」を考える上で、以前とは違う難しさもあるのではないでしょうか?
山内さん:そういう感じはありますね。しかし、看護の本質は変わらないと思っています。患者さんの苦痛を和らげ、心身のケアを行うという基本的な部分は、時代が変わっても大切にしなければならないと考えています。
― 時代が変わっても大切なことは変わらないということですね。看護師として働く中で、特にやりがいを感じるのはどのような時ですか?
山内さん:やはり、患者さんの表情が和らいだ時ですね。「楽になったよ」という言葉をいただいたり、患者さんの状態が改善されたりすると、看護師として本当に嬉しい気持ちになります。患者さんの言葉は昔も今も変わらないので、ニーズをいち早く察知してケアにつなげ、楽になったという反応がダイレクトに見れた時に看護が届いたと実感できます。

組織を活性化させる「クリニカルコーチ」の存在、その育成と効果とは?

― 山内さんは、看護職キャリア開発支援部門にも所属されているそうですね。貴院では、クリニカルコーチという制度を導入し、コミュニケーション能力の向上に力を入れていると伺いました。
山内さん:はい、クリニカルコーチは、看護師の育成やサポートを行う専門職です。コーチングの手法を用いて、相手の成長を促し、自律的な学習を支援しています。
― クリニカルコーチの育成は、具体的にどのように行われているのですか?
山内さん:臨床経験豊富な看護師を対象に、クリニカルコーチ育成研修を1年かけて実施しています。研修では、相手がありたい姿ややりたいことを表現し、それを目指して具体的な行動を描くためのコーチングの理論やスキルを中心的に学び、「聴く力」を重視した実践的な演習も繰り返し行っています。
― クリニカルコーチの導入によって、どのような効果がありましたか?
山内さん:クリニカルコーチは各部署に配置され、看護師の相談役として活躍しています。クリニカルコーチがいることで、看護師同士のコミュニケーションが円滑になり、チームワークが向上しました。また、新人の育成にも効果を発揮しており、離職率の低下にもつながっています。
― それは素晴らしいですね。クリニカルコーチの存在は、組織全体の活性化に大きく貢献していると言えますね。
山内さん:はい。また、クリニカルコーチの人たちは学習欲が高い人が多いので、その人たちがいることで周りの看護師も刺激を受け、ともに成長できるという好循環も生まれています。

「何でも言い合える」関係性が生む、質の高いケアと看護師の成長

― 看護師同士のコミュニケーションが円滑になることで、患者さんへのケアにも良い影響があるのでしょうか?
山内さん:もちろんです。看護師同士が何でも言い合える関係性であれば、患者さんの状態について気軽に相談できますし、より質の高いケアを提供できます。メンバー間のコミュニケーション力が高まると、ちょっとしたアイデアを出すことに躊躇することがなくなり、ケアの選択肢を増やすことができます。そうした情報共有がスムーズになり、患者さんの小さな変化にもチーム全体で気づきやすくなります。
― 確かにそうですね。看護師同士が連携することで、患者さんにとって最適なケアを提供できる可能性が高まりますね。
山内さん:はい。また、看護師同士が互いを尊重し、支え合うことで、一人で責任を負わなければならないなどの精神的な負担も軽減されます。看護師が安心して働ける環境を作ることは、患者さんへのケアの質を高める上で非常に重要だと考えています。
― それでは最後に、これから看護師を目指す人たちや、現在看護の現場で頑張っている人たちに向けて、メッセージをお願いします。
山内さん:看護の仕事は大変なこともありますが、それ以上にやりがいのある仕事です。患者さんの安寧を支え、社会に貢献できる素晴らしい仕事だと私は思っています。学び続ける姿勢を忘れず、患者さんとのコミュニケーションを大切にし、看護の道を歩んでほしいと思います。患者さんと向き合うには、まず看護師同士が腹を割って話せる関係であることが大事です。コミュニケーションのツールはたくさんありますが、最終的には人と人との繋がりが大切です。通じ合う関係を大事に、一緒に患者さんのケアをしていきましょう。それにより私たちもケアされます。大変なこともあると思いますが、仲間を信じて頑張ってほしいと思います。
― 山内さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(インタビュー Tomopiia Nursing café 編集長 石田秀朗)